日本の和食文化を守り、漢方薬の香り効果を高めるため、強いニオイの洗剤・柔軟剤はお控えください

 人の五感には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚があり全てが自律神経と連動しています。その中で視覚と聴覚、触覚は大脳新皮質に投影され、意識に昇る感覚として認識できます。
 ところが味覚は違います。舌には味センサーである味蕾(みらい)があり、ここで甘味、塩味、苦味、酸味、うま味を感知しますが、最終的に「美味しい」と判断するのは脳です。
 微妙な嗅覚の違い、 色・艶(つや)形状などの視覚の違い、温度や 口腔内の触覚、音、体調、雰囲気、気分、感情、過去の記憶、先入観などの違いによって、味覚は全く違ったものになってしまいます。つまり、味覚は様々な情報を統合して脳が感じる統合感覚なのです。
 例えばワインのソムリエなどが感じる繊細微妙な味覚も、味蕾の味情報だけでなく、嗅覚や舌触りなど様々な情報を統合した感覚です。

 世界遺産になった日本の和食文化も、四季折々の食材の香りや味を五感で感じて楽しむ世界に誇れる食文化です。オダシや味噌などの微妙な色や香りの違いが分からなければ和食を十分に堪能することができません。今は世界的な鮨ブームですが、素材の香りや味を生かした本来の日本の最高級の鮨を出すお店に行くと、強い香水の香りや柔軟剤などの強い香りを漂わせている人は嫌われると聞きます。
 また、毎日、濃い塩味の食事や、激辛カレーやキムチなどの辛みの強い食事ばかりしていれば、高級料亭のオダシで味わう和食の味は理解できなくなると思います。もしそのような人に高級料亭の料理が出されたなら、味も素っ気も無いと言って濃い醤油をかけて食べるようなことになることでしょう。

 嗅覚にも味覚と同じことが言えるのです。
 五感の中で嗅覚だけは、鼻粘膜にある 嗅神経の 嗅球がセンサーとなり、大脳新皮質を介すことなく、 臭い情報を扁桃体や海馬のある大脳辺縁系に直接伝えます。大脳辺縁系は食欲などの本能的な行動や防衛本能や、短期記憶や喜怒哀楽の感情などをコントロールし、さらに生理的な活動をコントロールする視床下部の自律神経系、ホルモン系、免疫系に直結していますから、臭いは人の本能や感情に直接的に作用してストレスを軽減したり高めたりするのです。特に強い香りが持続すると、脳はストレスと感じることが多いそうです。

 したがって幼小児期から強い香りに曝されていると、 繊細微妙な臭いを嗅ぎ分ける神経の発達に影響して、日本の食文化を十分に堪能できない大人になってしまう可能性があります。特に最近多く出まわっている、マイクロカプセル技術を応用した長時間強い臭いが持続する柔軟剤や洗剤、シャンプーなどを使用していると、使用している本人はその香りに鈍感になり、香りを感じなくなり、微妙な香りの区別ができなくなってしまうので特に危険です。また、長くマイクロカプセルの影響を受けていることで、化学物質過敏症になってしまう可能性もあります。

 当院での漢方診察は、四診(望診・聞診・問診・接(切)診の総称)といって全身を総合的に診察して気血水のアンバランスを探るものですから、臭いも診察の大切な情報です。強い香料をプンプンさせて診察に来られると本当に困るので、ご配慮の程どうか宜しくお願い致します。